日本人が英語下手のたった一つの理由


アメリカの子どもたちは小学1年生になると、毎日短い本を1冊読むこと、あるいは20〜30分間の読書をすることが宿題として義務づけられます。なぜ文字を習い始めたばかりの子どもに大量の読書を要求するのかというと、やさしい本の多読によって「リーディングフルエンシー/読みの流暢さ」を身につけることが、子どもの学力向上に直結するからです。

読書啓蒙活動を行うThe Children’s Reading Foundationの調査によると、全米の学校カリキュラムの「85%以上」は「読むこと」で構成されていることがわかっています。つまり小学校低学年の時期に本を早いスピードでスラスラと読み解ける力を獲得できれば、あらゆる教科学習がスムーズに進むというわけです。

読む量が少なすぎる日本の英語教育

全米の4年生、8年生(中学2年)、12年生(高校3年)を対象に実施される全米学力調査(National Assessment of Educational Progress)の結果を見ると、小学4年生時点のリーディング力は、8年生、12年生になっても変わらないことが分かります。つまり小学校低学年の時期に満足なリーディング力が身につかないと、学年が上がってから取り戻すことが難しくなるのです。

日本でも小学3年生から英語の授業が始まりましたが「コミュニケーション」が強調され過ぎていて「英語を読む指導」がほとんど行なわれていません。子どもを英語嫌いにしないようにとの配慮ですが、私は英語の音や活字への抵抗感が少ない小学校低学年こそリーディングを指導する適齢期だと考えています。
日常的に英語を使う環境がない日本ではコミュニケーション中心の英語教育は現実的ではありません。実践の場がないため学習内容が定着しないのです。外国人とのコミュニケーションに慣れさせたり、異文化体験をすることは大いに意義がありますが、肝心の英語力の向上はあまり期待できません。

近年、韓国、中国、台湾など、アジアの国々が英語力を向上させていますが、その一因として、小学校低学年から英語を正式教科とし、リーディングを指導していることがあると私は考えています。

コミュニケーションは相手が必要ですが、リーディングは自学自習できるのです。いつでも、どこでも、何時間でも、本さえあれば、学習者のやる気次第でいくらでも英語力を向上させていくことができます。

参考までにご紹介しますが、日本の中学1年〜3年の英語教科書に出てくる延べ単語数は「3年間で約6000語」です。アメリカの小学2年生は「1年間で平均85000語」を読みますから(Accelerated Reader 2018)、日本の英語教育はもう少し「リーディング」の育成に目を向ける必要があるのではないでしょうか。

どうしたら英語が読めるようになるのか?

日本の子どもが「ひらがな」「カタカナ」「漢字」という順で文字読みを身につけていくように、英語のリーディング指導も段階的に行われます。最初に学ぶのが、英語の「ひらがな」である「フォニックス」です。フォニックスは「A=ア」「B=ブ」「C=ク」というように、アルファベット26文字と「音」の関係を教えるものです。
日本では「A=エイ」「B=ビー」「C=シー」とアルファベットの「名前」を教えますが、これを覚えても簡単な三文字単語の「BED」すら読むことができません。「BED=ビーエイーディー」になってしまいますね。でもフォニックスを学ぶと「BED=ブェド」と正しい発音で読めるようになるのです。

日本の学校ではフォニックスを教えずに、いきなり単語読みを指導しますが、これは「ひらがなを読めない子どもに本を読ませる」ようなものです。この方法だと、多くの子どもが「正しく読めない」「知らない単語は読めない」という壁にぶつかります。そして「英語は難しいから嫌い!」となってしまうのです。

フォニックスを学ぶと小学生でもシェークスピアが読めるようになります。日本語は「漢字」を覚えなければ、難解な本が読めるようになりませんが、英語には漢字がありませんから、フォニックスを覚えるだけで、大人向けの小説や専門書だって読めるようになるのです。

もちろん英語の本が読めても、書かれている内容を全て理解できるわけではありません。しかし英語が読めるようになることは、子どもにとって大きな成功体験であり「自分は英語ができる」という自信とやる気を大きくしてくれるのです。

そこから先は、学習者の興味とレベルに合った本を多読していくことで、ボキャブラリーを増やし、文法知識を身につけ、表現力を伸ばしていけばいいのです。さらに付け加えると、本を読む時は、黙読していても頭の中で「音読」していますから、スピーキングとリスニングも同時に鍛えることができます。

サイトワーズを300語覚えると、どんな本でも7割読める!

「the, of, and, a, to, in」を読めない人はいないと思います。これらは英語の「頻出単語」であり、サイトワーズ(Sight Words)と呼びます。英語圏の小学校では、フォニックスに加えて、サイトワーズを必ず指導します。

小学校でサイトワーズを教える理由は明快です。全ての英語の「約50%は頻出上位100単語」のサイトワーズで、そして、全ての英語の「65〜70%は頻出上位300単語」のサイトワーズで構成されているからです。*絵本から専門的な学術文章まで全ての英語です。

たった300単語のサイトワーズを覚えるだけで、理屈では、どんな本も70%読めるようになるのです。サイトワーズはリーディングフルエンシーを身につける近道ですから、子どもたちに教えない手はありません。
サイトワーズにはいくつかの異なるリストが存在します。アメリカの小学校で最もよく使われるリストはDolch Sight Wordsと呼ばれる220単語です。このリストが発表されたのは1948年で、当時の子ども向けの絵本から単語が抽出されています。「The Cat in the Hat」で人気のDr. Seussの絵本シリーズはDolch Sight Wordsの220単語をベースに書かれています。

次にメジャーなものがFry Sight Wordsです。こちらは1980年に最新版が発表されました。このリストには小学3年〜高校1年生までの教科書で頻出する1000単語がまとめられています。この1000単語を覚えると、あらゆる英語の本、新聞、ウェブサイトの「90%以上」が読めると言われています。
オーストラリア(イリギス英語)の小学校でよく使われる単語をまとめたものがOxford Wordlistと呼ばれる500単語のリストです。このリストのオリジナルは2007年に発表されましたが、2017年にアップデートされており、現在最も新しいサイトワーズリストです。
以上のリストはインターネットで無料公開されていますから、興味ある方は検索してみてください。

リーディング訓練が足りないと英語嫌いになる!

私はアメリカで学習塾を経営しているのですが、「勉強が苦手!」という英語ネイティブの子どもに共通するのが「本への抵抗感が強いこと」です。満足なリーディング力を身につけていないまま学年が上がり、読む本の難易度が上がり、学習の消化不良を起こしているのです。

実は、これと同じことが日本人の英語学習者にも起きています。英語学習をスタートした時期に英語を読む訓練が十分でないため、英語を読むスピードが遅く、読解力が伴わないのです。そのため英語を見ると「読むのが面倒だ」「難しい」と苦手意識を持つようになります。

日本で実用的な英語力を身につけるには、英語の本を読み解く力を身につけることが不可欠です。これを実現するためには、英語教育のスタート時に、フォニックスとサイトワーズを指導して、英語の本が流暢に読めるようにしてあげれば良いのです。

最後に小学校低学年の子どもに英語を教えると、母国語(日本語)の発達が悪くなるのではないかと心配される方がいます。英語を日常的に使う環境がない日本で、1年間に35コマ程度(26時間)の英語レッスンを受けても母国語がおかしくなることはありませんのでご安心ください。